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日常のこと、アニメ感想、ネタなど。
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さて、しばし続いたばれんたいんシリーズも、これがラストです。……それにしてもね……三月も終わろうっていうのに何やってんでしょうね本当に……。
今回は、伊作から久々知へ、なのかな、一応。久々伊に始まり、久々伊に終わりました。

ところで、昨日はゲームの発売日でしたね。ゲームはまだやってませんが、予約特典のランチョンマットが……!!
伊作が超かわいいんですが……!!!
上級生はみんな笑顔ですが、照れ線が入ってるのは伊作だけ!
なんでこんな可愛いんだ。やっぱり伊作の笑顔には破壊力があるよ!!

では、最後のチョコレート。伊作から久々知へ、追記からどうぞ。


 昼休みも半ばを過ぎた食堂は、結構混んでいた。
「おーい、久々知、ここ!」
 空席を探して見回していると、色とりどりの頭巾の中から一本の手が上がった。腕の根元でぼさぼさ髪が揺れると笑顔がのぞく。俺はおばちゃんからA定食を受け取ると、そっちへ向かった。
「遅かったね。一年生いなかった?」
 そのテーブルにはいつものメンバーがいた。六人掛けの席の半分を占めている。俺はA定食を卓上に置くと小脇に抱えていた包みをその横に置き、竹谷の隣に座った。
「いや、伊助はすぐに捕まった。三郎次に伝言頼めたし」
「ほほう。では兵助くん、それは何かなあ?」
 隣の竹谷が定食越しに包みを突付くように指差してくる。俺は包みをテーブルの真ん中あたり、ほぼみんなから等距離のあたりに置きなおした。
「伊作先輩にもらったんだ、チョコレート。飯終わったらみんなで食べよう」
「……くぉのおっ!」
 言い終わるや否や、竹谷がヘッドロックをかましてきた。こいつは結構腕の力があるからまじで苦しい。
「昨日伊作先輩に首尾よく渡せたと思ったら、もうお返しかあ!隅に置けない奴めっ、このっ!ていうかちょっと早くね?」
「ぐは、こらやめ竹谷、苦しいって!」
 ギブギブ、と腕を叩くのになかなか離してくれない。そうこうしていると、俺の正面に座った雷蔵が言った。
「でもさ。そんな伊作先輩からもらった大事なチョコ、僕たちも食べていいの?」
 雷蔵の冷静な指摘に竹谷の腕の力も緩む。その隙になんとか逃げ出すと、俺は座りなおして襟元を正した。
「いいんだ。みんなで、って言っちまったし。それに……これ、本当は新野先生に渡す筈だったんだって」
「新野先生?」
 雷蔵と竹谷はぽかんとした顔を向けてきたが、三郎だけは、重々しく頷いた。
「……分かった。なら一緒に食ってやる」
「ん。そうしてくれると助かる」
 二人はぽかんとした顔を俺と三郎と包みを交互に見ていたけれど、痺れを切らしたのはやっぱり竹谷だった。
「つまりそれって、どういうことだ?」

 その日、タカ丸さんの報告のせいで急遽火薬委員が集まる必要が出来たため、俺は一年は組の教室へ向かった。首尾よく伊助を捕まえ、用件を伝えて三郎次への伝言も頼んだ後、一年校舎へ続く渡り廊下を歩いていると、向こうから伊作先輩が歩いてきた。
「こんにちは」
 こんなところで会えるなんて運がいい。しかし俺が挨拶して、ようやく伊作先輩は俺に気付いたようだった。
「ああ、久々知。こんにちは」
「一年生に何か用ですか?」
 普段六年生が来るはずもない一年生の教室前で聞くまでもないことだが、なんだか伊作先輩の表情が曇っているようで、俺はつい尋ねてしまった。
「うん。は組のしんべヱくんにちょっとね」
 しんべヱ?保健委員の後輩なら、乱太郎か伏木蔵だろうに。確かにしんべヱは乱太郎と一緒にいることが多いけれど、何故、しんべヱなんだろう。しかし。
「は組の教室には伊助と庄左ヱ門しか残ってませんでしたから、いないと思いますよ。昼休みだし、食堂じゃないですか?」
 正確に言うと、俺が伊助に用件を伝えている間にほとんどの生徒は出て行ってしまい、俺が教室を出る時には二人しか残っていなかった、ということだが。どうにせよ、これから教室へ行ってもしんべヱはいない。
「そっか……。じゃ、どうしようかな」
 歯切れ悪く答えると、先輩は胸に抱いた包みを持ち直した。先輩が抱いていたその緑色の包みは、さっきからずっと気になっていた。
 思わず包みに目を取られていると、先輩も気付いたようで、「ああ、これ」と言いながら包みを表向けた。
 それは、俺が昨日伊作先輩に渡した包みとあまり変わらない大きさの、薄紙で包まれて飾り紐の掛けられた、もっと上等な包みだった。
「昨日、新野先生に差し上げるつもりで用意してたんだけど、うっかり渡しそびれてね」
 やっぱり。昨日渡すつもりだったということは、中身はチョコレートに違いない。この上品な包み方も、相手が新野先生であれば納得がいく。
 そうか。伊作先輩は新野先生にチョコレートを。
 伊作先輩のことをずっと見つめてきた俺には、先輩の中でどれだけ新野先生が大きな存在か知ってる。
 先生のことを思えばこそ、バレンタインなんていう南蛮の軽薄な風習には見向きもしないのかと思っていたら、今年は差し上げるつもりでいたんだ。
「今朝ならまだ渡してもいいかな、と、医務室に持っていったら、先生は旅支度をなさっていて。何やら学園長の友人で、新野先生の知り合いでもある方が、急に病気になられたそうでね。先生はお見舞いかたがた診察に行かれるとかで、慌しく旅立って行かれたんだ。急いでいらしたから、こんなもの渡せなくて」
 その包みを見る伊作先輩の目は、どんより暗く沈んでいた。忌々しい、厄介なものを見るような目で。
「すぐ帰るとは仰ったけど、いつになるか分からないし。その間に悪くなると勿体ないからね。……これでも、チョコの本場から来た南蛮人が作ったっていう、福富屋さんの限定品なんだよ」
「へえ、それは凄い」
 噂ぐらいは聞いたことがあるその商品は、品薄なだけに人気も高く、値段も高かった筈だ。それをあっさり手に入れたんだ、新野先生のために。
 俺の驚きっぷりが可笑しかったのか、先輩の口元がかすかに微笑んだけれど。それだけだった。すぐに沈鬱な表情に戻る。
「勿体ないけど自分で食べる気にもならなくてさ。自分で食べない物を委員会で配るのもなんだか気が悪いし……もう、仕方ないから、しんべヱくんに食べてもらおうと思って」
 確かに。しんべヱなら食べるだろう。あの子は何でも気持ちよく食べる子だから。おそらく、伊作先輩がこのチョコレートに籠めた気持ちを、気に掛けることすらしないで。
 しんべヱは悪くない。あの子に罪が無いことは分かってる。でもそれは、捨てるよりまし、程度の選択肢だ。食堂の生ごみに混ぜるよりまし、位のことでしかない。
「でも、チョコレートは日持ちしますよ。新野先生もすぐ帰ると仰ったのなら、それまで待ってみてはいかがですか?」
 差し出がましいようですが、と付け加えると、先輩は首を振った。
「ううん。……でもきっと、行かれた場所から考えても、少なくとも三日はかかるだろうし。バレンタインから四日も五日も遅れてチョコ渡すなんて変だよ。十四日のうちに、渡そうと思えば渡せたのに」

「……俺はさ、五日だろうが十日だろうが、遅くなったって渡せばいいと思うんだよ」
「うんうん」
 箸を置いてそう言えば、味噌汁をすすりながら竹谷が頷いた。
「でもさ。それをしたくないのは、やっぱり伊作先輩の気持ちが純粋だからだろうな」
 多分それは、尊敬とか、憧れとか、敬愛とか。伊作先輩が新野先生に抱いているのは、きっとそんな気持ちだ。とても純粋で、深い思い。
 例えて言えば、人が持つ「好き」という気持ちの上澄みみたいなもの。無色透明で、純粋で、どんな下心も邪心も入る隙の無い、清らかな気持ち。
 決して惚れた腫れたとかそんなんじゃない。そんなんじゃないからこそ。
「純粋なだけに、とても脆くて。バレンタイン、という口実でもなければ、贈り物も出来ないような、臆病な気持ちで」
 だって新野先生は師匠だから。弟子として生徒として、そうおいそれと物を差し上げることなんか出来なくて。弟子という範疇を、超えることなんか出来なくて。でも新野先生を思う気持ちを、何か形にして伝えたくて。
「なのにうっかりその機会をふいにしてしまった自分をとても責めてるみたいでさ。だから俺、言ったんだよ」
「何て?」
 B定食の豚の生姜焼きを飲み下してから、雷蔵が聞く。
「そのチョコレート、俺に下さい、って」

 言われた先輩は、大きな目をまん丸に開いていた。
「だって俺、昨日先輩にチョコレート上げたでしょう?だから俺には、先輩からお返しをもらう権利がある筈です。でも来月とかまで待ってられないし」
 殊更明るく笑って言えば、先輩は困ったように眉をひそめた。
「でもさ。こんな他の人にあげようとしたものの横流しなんて、悪いよ」
「そんなことありませんよ。福富屋の限定品のチョコ、興味ありますし。すごい人気商品らしいじゃないですか」
「でも……」
「あ、そうだ、雷蔵も前に食べてみたいって言ってたし、竹谷なんか昨日はいつも迷惑かけてる先に配るばっかりで一個もチョコもらえなくてめげてましたから。喜ぶと思いますよ。ええ、チョコもらえたら、みんなで食べさせてもらいます」
 俺は懸命に笑いかけた。明るく笑って、軽いノリで限定品のチョコに興味がある振りを心がけたが、内心は必死だった。
 このチョコレートは、行き場を失った伊作先輩の気持ち、そのものだ。だとしたらこのチョコが、捨てるよりまし、程度の選択肢を辿っていい筈が無い。しんべヱは決して悪くないのだが、それでもどうしても、このチョコをしんべヱにやる訳にはいかない。
「三郎ってあんまり甘いもの好きじゃないみたいですけど、先輩からだって聞けば喜んで食べると思いますよ。だから俺たちに、そのチョコレート、下さい」
 行くべき先に思いが届かないのなら、せめて俺が受け止めますから。
 だからどうか、その思いを捨てるようなことをしないで下さい。
 そのチョコレートを、俺に下さい。
 俺はにっこり笑うと、手を頂戴の形にして、先輩に差し出した。
「伊作先輩、お願いします」
「……そんなに言うなら……でも、本当にいいの?」
「そのチョコレートが欲しいんです」
 じゃあ、と言うと、躊躇うようにおずおずと、薄緑の包みが差し出された。先輩の気が変わらないうちにと、俺は包みを両手でがっしりと掴む。
「ありがとうございます!うわ、嬉しいな」
 はしゃいでみせる俺に、先輩は長く溜息をついた。
「みんなで食べさせてもらいますね。本当に、ありがとうございます」
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
 ようやく調子を取り戻したのか、先輩は笑顔を見せてくれた。いつもの、穏やかで優しい、温かで明るい微笑み。
「受け取ってくれてありがとう、久々知」
 健気に笑ってみせた伊作先輩は、厳しい冬に咲く福寿草にやっぱり似てると思った。

「半ば強引に奪ってきたようなものだからさ。もらった、というより、奪った、という方が正しいかもしれないけど」
「兵助にしちゃあ、強引だよなー」
 隣の竹谷がにやにや笑ってくるが、まあな、と受け流しておく。
 だってあんな暗い表情、伊作先輩には似合わないし。
 いつもいつでも笑っていられる程、人生はお気楽じゃない。それでもあの人には暗い表情や悲しい顔はして欲しくないし、何よりあの人には笑顔が似合う。
 今回のことで、先輩が新野先生を思う気持ちの深さを思い知らされた訳だが、それでも、伊作先輩の笑顔を取り戻せただけで、俺は大いに満足していた。
 それに。
「でもさ、てことはこれって、伊作先輩からのお返しなんだよね?やっぱりそんなの、僕らが食べちゃっていいのかなあ。あ、でも兵助のために用意した物じゃないなら、横流し品の処分っていうなら協力するけど……でもなあ。うーん」
 いつもの迷い癖を発揮してる雷蔵に、これを言おうかと思ったがやめる。また竹谷にヘッドロックかまされない。
「良いに決まってるだろう。俺も先輩に、みんなで食べるって言っちまったし」
「そうそう。本当に取られたくないなら、こんなところに持ってきたりしないって。一人でこっそり隠してるよ、兵助は」
 湯飲み越しに、三郎が俺ににんまり笑って見せた。三郎には、お見通しかもしれない。
 別れ際、にっこり笑った後に、先輩はこう言ってくれた。
『でも、これはこれとして、お返しはまた別に用意するからね。期待していいよ、久々知』
 歩み去って行く先輩の背中を見ながら、俺は飛び上がるような気持ちを堪えていた。
 お返しなんてちっとも考えてなかったのに。口からでまかせでも言ってみるもんだ。先輩が俺に何か贈り物をしてくれる。何でもいい、その気持ちだけで充分嬉しい。
 俺にどんな物を選んでくれるだろう。もちろん、新野先生に用意したチョコには絶対に敵わないだろうけれども、それでもいい。先輩が俺のために、何かしてくれるのなら。
 ああ、今から一ヵ月後が楽しみだ。
「福富屋の限定チョコか。南蛮人の作る本場の味ってどんなかな。やっぱすげえ美味いのかな」
 とっくに食い終わった竹谷が、俺を突付く。雷蔵も腕組みをしながら、目は限定品チョコに釘付けだ。
「もらっていいのか迷うけど、味見くらいはしたいかも」
「ほらほら、食い終わったんならさっさと開けろよ。昼休み終わるぞ」
 三郎がにやりと笑いながら顎で促す。仲間達に急かされて、俺はそっと飾り紐を解いた。
 

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